「できちゃった婚」という言葉があります。
妊娠が「先」、結婚が「後」の結婚です。
芸能人どおしの結婚発表の場合「新婦の○○さんは、妊娠していない」と報じられることもあります。
「できちゃった」という言葉が耳障りがよくないとして、「授かった婚」と言いかえたりもします。
日本では、法的な婚姻関係を重視する伝統的な意識が強いことから、妊娠したら、結婚するという意識が強いようです。
事実婚に対する目は厳しいものがあります。
特に、子どもがいる場合はなおさらです。
法的に「問題」はあるのでしょうか。
民法772条1項には「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と定められています。2項には「婚姻成立の日から200日後または婚姻の解消若しくは取消の日から300以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定(される)」と定められています。
「婚姻成立の日から200日以内」だからといって、戸籍の子の「父親」欄が「空白」にされるということはありません。
市町村役場の職員は、「婚姻成立の日から○○○日」などと「野暮」な計算はしません。
当然のように、「父親」欄には「夫」の、「母親」欄には「妻」の氏名が記載されます。
ただ、夫や親戚などが「子でない」と言いだした場合の扱いが異なります。
「婚姻成立の日から200日後」の場合は、「夫の子と推定される」わけですから、民法774条、775条により「夫は、子が嫡出であることを否認することができる」ものの、「否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行なわれ」なければなりません。
民法777条によば「嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知ったときから1年以内に提起しなければならない」となっています。
最高裁判所・昭和41年2月15日の判決には「民法772条2項にいう『婚姻成立の日』とは、婚姻の届出の日を指称すると解するのが相当であるから、婚姻届出の日から200日以内に出生した子は、同条により嫡出子としての推定を受ける者ではなく、たとい子出生の日が夫婦の挙式あるいは同棲開始の時から200日以後であっても、同条の類推適用はないものというべきである」となっています。
「婚姻成立の日から200日以内」に生まれた子の父子関係を争うのは「親子関係不存在確認の訴え」(人事訴訟法2条2号)になり、確認の利益があれば父親でなくても訴訟を提起できますし、提訴の期間制限はありません。
父子関係は、DNA鑑定により、ほぼ100%に近い確率で存否を明らかにできるといわれています。
父が死んで、他に戸籍上の子がない場合、「親子関係不存在確認」請求が認められれば、兄弟が遺産相続できるわけで、相続時において、争いがあった場合に、「推定されない嫡出子」は、危うい立場となります。
なお、弁護士をしていると、最近の戸籍をみると「できちゃった婚」など、珍しくも何にもありません。
しかし、明治時代や大正時代や昭和初期の戸籍にも、「婚姻成立の日から200日以内に生まれた子」は珍しくありません。
「三年添って子なきを去る」といって、3年たっても、跡継ぎが生まれない妻は離婚される風習がありました。武家の家系だけではなく、百姓、商家も同じです。
といっても、いったん婚姻届を提出すると、そう簡単に離婚できません。
結婚をしても婚姻届を提出せず、内縁のままでいて、子を妊娠したら(男に限る必要はありません。娘に養子をとればいいからです)、婚姻届を出すという風習が昔はあったのですね。