私は、前回のコラムで、以下のとおり書いています。
「 配偶者が不倫をしたときには、配偶者に対してはもちろん、不倫の相手方に対して慰謝料を請求することができます。当然の話ながら、不倫の相手方が、配偶者の存在を知っていることが前提となります。
「 『金額はいくら』との法律相談をよく受けますが、交通事故の慰謝料のように裁判所の統一基準はありませんし、担当する裁判官の考えにより幅がずいぶんあるというのが実感です。」
若干無理はあるのですが、ある程度定型化されている交通事故の慰謝料との対比で考えてみましょう。
交通事故で、女性が「外貌に醜状を残す」とされた場合の後遺障害等級は12級です。
「外貌に醜状を残す」の「醜状」は、具体的には「顔面部では、10円銅貨大以上の傷跡または長さ3センチメートル以上の線状痕」とされています。
大阪弁護士会交通事故委員会の「交通事故損害賠償算定のしおり」(通称「緑の本」)は、大阪地方裁判所15部(交通部)で認容される金額を基準にしていて、後遺障害等級12級の慰謝料は280万円程度となっています。
配偶者が不倫をしたときには、不倫の相手方に対して慰謝料を請求できるのですが、その精神的苦痛と、「女性の顔面部に10円銅貨大以上の傷跡または長さ3センチメートル以上の線状痕が残った場合」の精神的苦痛を比較してみてください。
配偶者の不倫により離婚に追い込まれたなどの深刻な事情がある場合もあるのですが、まだ「顔に10円銅貨大以上の傷跡や、長さ3センチメートル以上の線状痕が残った場合」より「まし」といえる場合が多いのではないでしょうか。
裁判官が、精神的苦痛が、「顔に10円銅貨大以上の傷跡や、長さ3センチメートル以上の線状痕が残った場合」より「まし」と考えた場合は、280万円より低い金額となります。
なお、これも不思議な話で、私自身納得しがたいのですが、同じ事故の同じ損害賠償請求でも、ちゃんと任意保険をつけていて、保険会社から任意保険をもらえる場合と、自賠責保険しかつけておらず、保険会社からの任意保険がもらえない場合には、裁判官の提示する和解金額は、自賠責保険しかつけていない方が低額となりがちです。
先ほどの外貌醜状の280万円は、任意保険をつけていて、保険会社から任意保険をもらえる場合の金額であることを頭においておいてください。
あと、配偶者との別居・離婚に至ったような場合、配偶者に資力がない場合を除いて、配偶者にも当然損害賠償請求をするでしょう。
相当金額を、配偶者から得ているなら、不倫の相手方への慰謝料は低めになりがちであるということも覚悟しておいてください。
ただ、弁護士は、100万円からせいぜい200万円くらいしか認容されないかもしれないという場合であっても、300万円とか500万円の請求訴訟を提起することを勧めるのが通常です。
最初から200万円しか請求しない場合、下手をすると100万円で終わりということがあるからです。
あと、不倫と関係がない場合とは関係なく、慰謝料一般について述べておきます。
確かに「精神的苦痛」ですから、人それぞれ、「請求するだけなら」いくらでも自由です(これに対し、100万円しか貸していないのに200万円の請求はできません)。
しかし、交通事故で殺されても、慰謝料は最高3000万円程度です。
「殺される」以上の精神的苦痛はありませんから、例えば5000万円の慰謝料を請求するのは無理があります。
もちろん、これは、訴訟を提起したときの話であり、当事者が合意すれば、いくらでもかまいません。
芸能人夫婦の離婚にあたり、子の養育費とは別に、1億円以上の慰謝料が支払われることがあるというのは、当事者が合意しているからです。