この前のコラム「慰謝料を準消費貸借にしてはいけません」で、以下のとおり書きました。
「借主が既に債務を負担しているときに、それを 消費貸借の目的とする契約が準消費貸借契約といっていいと思います」「ここで注意することは、『準消費貸借』が締結していない場合には、本来なら、貸主が、もとの債権の存在を主張立証できないと敗訴になるのに比べ、『準消費貸借』が有効に締結された場合、借主が、もとの債権の不存在を主張立証できないと敗訴になるというという違いがあります」
つまり、もともとの債務が貸金債務の場合、そもそも貸金債務のないことが立証された場合は、準消費貸借金支払請求訴訟を提起しても請求が棄却されることになります。
よくあるケースなのですが、結婚を前提として長期間交際して男女が、別れるにあたり、金銭を多く支出していた当事者が、金銭を負担していない当事者に対して、これまでの金銭(同棲していた場合家賃、生活費。同棲していない場合には、ホテル代金、飲食費、小口の立替金など)の精算を求め、請求された当事者が認めることがあります。
金銭を負担していない当事者が、別れ話を切り出した場合に、金銭を負担している当事者が精算を求めることが圧倒的に多いです。
通常、素人の方は「借用証」を作成し、合意した精算金を合計して「借入金」とし、分割支払いも含め、支払い方法について記載されている場合が多いです。
この場合、結婚を前提とした交際をしていたわけですから、財布が将来一つになることが前提であり、「貸付けた」=「返済の合意があった」かどうかというと疑問です。
準消費貸借の基礎となる債務がないとして、準消費貸借が認められないから、請求自体をあきらめなさいと言う、比較的若い弁護士さんもおられるようです。
しかし、私はそうは思いません。
前記のとおり、話合いの結果、要求された方が非を認め、交際期間中に、費用を相手に負担してもらった分や、渡してもらった金銭について、返還を約束することはよくあることであり、一括で用意できなければ、分割ということもあります。
この場合、多くの場合は「借用書」という名称の準消費貸借契約書を作成してもらうことが多いのですが、「約束は守られなければない」という原則に基づいて、貸金の準消費貸借と認められなくても、新たな和解契約をなしたとして有効でしょう。
やりとりされた金額の範囲内であれば、暴利行為として無効にはなりませんし、若干こえていたとしても、それは慰謝料の趣旨でしょう。暴利行為とはならず有効です。
「準消費貸借」=「従前の債権債務をまとめること」、「従前の債権債務をまとめること」=「従前の債務の返還の合意がなければ準消費貸借は無効」という、弁護士が考えがちな論理は誤りで、新たな、男女間の交際についての清算の和解契約が有効に成立したと見るべきものでしょう。
この場合、「借用書」と書くと「準消費貸借として認められない、あきらめなさい」と弁護士にアドバイスされるおそれがあります。
本来は、「男女間の交際解消についての和解金」と書くべきでしょうが、通常は困難でしょうね。自分の体裁も悪いですし・・
「借用証」と書いておいて、上記の説明を弁護士さんにされるのが賢明かと思います。