真正連帯債務と不真正連帯債務の違いをご存じでしょうか。
真正連帯債務と不真正連帯債務をあわせて「連帯債務」と呼ぶこともありますし、真正連帯債務のことを、「真正」を略して「連帯債務」ということもありますので、少しややこしいですが。
連帯債務の典型的な例は、連帯保証でしょう。
連帯債務は債務者間に一定の人的関係があることを前提としています。
効果は、債権者は、連帯債務者の一人に対し、または、全員に対し、全額の弁済を請求することができるというものです。
民法434条から439条までに定められている「請求」「更改」「相殺」「免除」「混同」「時効完成」は、連帯債務者の一人に対し生じれば、他の連帯債務者に対しても、その効力を生じます。
もっとも「免除」と「時効完成」については、「連帯債務者の負担部分に限り」効力を生ずるとされています。
不真正連帯債務と解されているもので、良くある例は、以下の3つです。
1 会社の役員の職務上の不法行為と会社の責任
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負いますが(会社法429条)、役員個人が、不法行為者として、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合、役員等個人と会社の債務は、不真正連帯債務の関係に立つと解されています。
2 使用者責任
被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を原則として負いますが(民法715条)、被用者個人が、不法行為者として、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合、被用者個人と雇用者の債務は、不真正連帯債務の関係に立つと解されています。
3 共同不法行為
共同不法行為(民法719条)において、各共同不法行為者の負う損害賠償債務は、不真正連帯債務であると解されています。
大昔には「明文のあるものの他」「不真正連帯債務の関係に立つ賠償債務については負担割合はない」と言われてきました。
1についての公刊された判例は見あたりませんが、2、3の諸判例からすれば、自己の負担分以上に、第三者に賠償責任を果たした会社や他の役人から求償されないと考えるべきでしょう。
ただ、各人に何百億なんかの支払いを命じたところで、とれるはずもありません。
2については、基本的に、会社の負担分0、被用者の負担分100のはずです。
しかし、被用者に職務遂行上の過失があっても、「重過失」が認められないときは、雇用者の損害賠償請求は棄却されていますし、重過失が認められるような場合でも、被用者側の過酷な状況や会社の非などが考慮されて、その責任が25%ないし50%に軽減される判例もみられます。
3については、2台以上の自動車の事故により、巻き添えを食った被害者の賠償責任について、各運転手の過失割合に応じて負担割合が決められるのは、法律家なら「自明」であり、一々検討する人もないでしょう。不貞の夫と、相手方女性への慰謝料請求は共同不法行為ですが、不貞の夫と、相手方女性に、それぞれの負担割合(夫が高く、相手方女性が安い)があるのも「自明」ですね。
不真正連帯債務という法律関係が生じる場合は、要は、被害者が、全額賠償を受けられればそれでいいのです。そして、被害者も、2重、3重には請求できません。
あとは、不真正連帯債務を負担する側で、負担分に応じて清算されれば紛争は解決です。
ちなみに、妻が不貞行為をはたらいた女性を訴え、夫に対しては離婚調停の際に慰謝料請求権を放棄した場合はどうでしょう。
共同不法行為であることに間違いはありません。
「不真正連帯債務であって連帯債務ではないから,その損害賠償債務については連帯債務に関する同法437条の規定は適用されないものと解するのが相当である。」(最高裁判所・最判平成6年11月24日判決 判時1514号82頁)とされ、一方当事者に対する「免除」の効力は他方におよびませんから、不貞行為をはたらいた女性は免除の主張ができません。
なお、私は、かねてから不思議だと思っているのですが、弁護士は、妻が、夫と、夫と不貞行為をはたらいた女性の双方を訴える場合、最初から、夫の負担分、夫と不貞行為をはたらいた女性の負担分にわけて請求することが多いですね。これは手続きが別々(例えば、調停と訴訟)のことが多いという理由からかも知れません。
また、配偶者と不貞行為をはたらいた相手方は、もちろん不法行為に基づく慰謝料請求なのですが、1割の弁護士費用を請求せず訴訟を提起しています。交通事故なら、必ずといっていいほど、1割の弁護士費用を請求するのですが・・
これは、もともと、相場より「ふっかけて」請求しているので、気が引けるという理由からでしょうか。
ちなみに、不思議だ不思議だと思っている私自身、最初から、夫の負担分、夫と不貞行為をはたらいた女性の負担分にわけて請求することが圧倒的に多いですし(一括して請求した事例もあります)、配偶者と不貞行為をはたらいた相手方に対する損害賠償請求訴訟で、1割の弁護士費用を請求したことがありません。